訪韓報告② 市民団体編

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7月11日から14日まで、大椿ゆうこは、福島みずほ党首・服部良一幹事長らと共に韓国を訪れました。前回の記事では進歩勢力4党との懇談についてご報告しましたので、今回は市民団体との交流の模様をお伝え致します。

検察政権の言論掌握に危機感

ソウルに到着後、最初に元東亜日報記者で自由言論実践財団理事長の李富榮(イ・ブヨン)氏を尋ね、尹錫悦政権下で悪化する韓国の言論状況について見解を伺いました。李理事長は、検事出身の尹大統領が、検察が被疑者を捜査する方式の政治を行い、韓国放送公社(KBS)・文化放送(MBS)といった公営放送を掌握しようとしていると批判されました。新聞も保守化が進み、既存メディアへの信頼が低落する言論界の現状に対する李理事長の危機感がひしひしと伝わってきました。

現在韓国では放送通信委員会の常任委員のうち、大統領が推薦する2委員(李眞淑(イ・ジンスク)委員長、金泰圭(キム・テギュ)副委員長)のみが任命され、国会交渉団体[※]が推薦する3委員が空席の「2人体制」のまま、重要事項が決められています。また、大統領が同委員会の委員長候補とした李眞淑(イ・ジンスク)氏については、大田MBC代表理事を努めていた際、労組弾圧を行っていたこと等を理由に、言論界から就任辞退を要求する声が上がりました。8月2日、国会本会議において野党主導で李委員長弾劾訴追案が可決され、委員長の職務は即時停止されました。最終判断は憲法裁判所の審判に委ねられています。さらに、公営放送に対する政府の影響力を制限するため公営放送の理事数を増やし、理事推薦権を言論・放送学会関連職能団体に拡大すること等を盛り込んだ放送4法が与党のフィリバスターに遭いながら野党主導で通過させられるなど、放送が大きな政治イシューとなり波乱を呼んでいます。

[※]20人以上の国会議員が所属する政党、または他の交渉団体に所属しない20人以上の議員によって構成されるグループ。第22代国会では「共に民主党」(野党第1党)と「国民の力」(与党)のみ。

話は転じて、東アジア情勢について、李理事長は日韓米三国が軍事同盟のようになり、南北対立や韓中両国の関係悪化を招いていることへの危惧を示した。さらに歴史問題についても、尹大統領は日本政府の歴史否定を受け入れるような態度をとり続けており、韓国国民の心を痛めつけているとも話されました。韓半島出身者が強制労働された佐渡金山の世界遺産登録容認や、日本の植民地支配を正当化してきた「ニューライト」の人物を独立記念館長に任命した問題などにより、尹大統領は歴史認識の観点からも批判を浴びています。

対する福島党首は、自民党政権が米国に追従し、日米韓共同訓練を頻繁に行っていることに韓国の人々が尹政権に持つのと同様の危機感を抱いているとし、社民党が2001年に出した「土井ドクトリン」において北東アジアの非核化構想を打ち出したことを紹介しました。

真相究明と再発防止を願う遺家族の奮闘

続いて、2022年10月29日に起こった梨泰院惨事の犠牲者を追悼し、真相究明を求める市民の運動を記録した「10・29梨泰院惨事記憶疎通空間星々の家」を訪れ、李正敏(イ・ジョンミン)遺家族協議会運営委員長や、遺家族の支援者と交流しました。

ハロウィーン行事で狭い路地道に集まった若者159人(うち日本人は2人)が圧死したこの惨事については、群衆事故の防止に十分な対応を取らなかった責任の所在を究明するための特別法が「共に民主党」主導で本会議を通過しましたが、大統領の拒否権によって成立が妨げられました。遺家族らは責任者の処罰や国会賠償を求めるのをやめ、真相究明に絞る方針に転換し、5月2日に「真相究明・再発防止のための特別法」が本会議在席議員ほぼ全員の賛成で可決されました。

李運営委員長は、自分たちの運動は韓国のみならず、全世界で同様の惨事が起きることを防ぐことを目的にしているとし、日本の明石花火大会歩道橋事故の遺家族と交流を続けていことを教えて下さいました。遺家族同士の繋がりやトラウマ治療について質問した大椿ゆうこに対しては、現在遺家族の他、惨事の目撃者や検察・消防等惨事の対応に当たった人も含めたトラウマ相談が行われているが、遺家族間の疎通の機会を拡大することがより重要だとの考えを示されました。

惨事の犠牲者は韓国人だけでなく、イラン・ロシア・中国・米国等、14カ国から来た26人の外国人が命を奪われました。必ずしも韓国語が使えるわけではない外国人遺家族に対しての情報共有はとりわけ不十分で、李運営委員長も国境を越えた遺家族間のやり取りを行う難しさを吐露されました。

社民党訪韓団は「星々の家」訪問後、惨事の発生現場に足を運び、惨事を記憶する碑が設けられ、路地道の名前が「10・29記憶と安全の道」と名付けられる等、事件の継承の努力がなされていることを確認しました。

路上に溢れる市民の熱気

大統領弾劾署名が120万筆を超えるなど、「政治を変えよう」という熱気に溢れる韓国。その熱気は、路上からも伝わってきました。交差点など町のあちこちに政党や政治メッセージの書かれた横断幕(特定の政治家にターゲットを絞ったもの、大統領の拒否権行使に抗議するもの、既存の労働法を大きく変える「黄色い封筒法」制定を求めるもの等、多様)があり、汝矣島の国会議事堂前では様々な団体が貸し切りバスやテントで宣伝活動を行っていました。7月13日の夕方に行われた、海兵隊兵士殉職事件特別検事法に対する大統領の拒否権行使を糾弾する集会では都心の道路を1万人余りが埋め尽くしました。

日本とは違う路上の熱気を目撃し、移動中も韓国の草の根の民主主義の力を体感することとなりました。

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