5月22日の厚生労働委員会の質疑の続きです。後半では、韓国オプティカル労組の労働争議と、芸能従事者の労働問題について取り上げました。
韓国オプティカルハイテック労組の労働争議は、昨年7月に社民党として韓国を訪れて以来、継続して取り組んでいます。日本の労働組合法は、海外の労働者・使用者に適用されないという政府に対し、政府が自ら作ったビジネスと人権ガイドラインを活かし、グローバル企業としての責任を果たさせるべきと迫りました。
芸能従事者の労働問題については、日本芸能従事者協会の森崎めぐみ様から助言を頂きながら作成しました。大椿ゆうこにも芸能界で働く友人がいる都合で、関心を持っていたテーマ。芸能界には独特の慣行があり、「労働問題」としても注目されること自体が稀かも知れませんが、実は労働者の問題だということを伝える質問を組み立てました。
日東電工の断交拒否は不当労働行為!
大椿ゆうこ/ 大阪に本社がある日東電工が韓国亀尾(クミ)市につくった100%子会社である韓国オプティカルハイテック社は、2020年10月に発生した工場火災を理由に廃業を発表し、従業員は一方的に仕事を奪われた。この工場で行われていた作業は、平沢(ピョンテク)にある別の子会社、韓国日東オプティカル社の工場に移され、そこでは新規採用が続けられている。今でも、7人の労働者が雇用を平沢の工場に継承するよう求めて闘っており、労働組合・宗教者・学生、また国会議員も含めて多くの市民が彼らの労働争議を支援をしている。火災のあった工場では、2人の労働者(※今は1人)が今でも屋上に上がって闘い(高空籠城)を続けており、間もなく500日を超えようとしている。
組合は、日東電工の行為が、「OECD責任ある企業行為に関する多国籍企業行動指針」や、日本政府自ら定めた「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」に違反しているとして、日本政府にも主体的な関与を求めている。昨年7月には、当該労組のほか韓国の国会議員3人が来日し、安浩永(アン・ホヨン)環境労働委員長の名義で書かれ、96人の国会議員が署名した書簡文を外務省・経産省に提出した(※その時の様子の記事はこちら)。また、当該労組は韓日両国のNCP (National Contact Point)に日東電工によるOECD指針違反についての問題提起を行い、現在調査が行われている(※その時の様子の記事はこちら)。彼らは日本でも労働組合を立ち上げ、昨年11月26日に大阪府労働委員会に救済申立てを行い、受理されている。
韓国オプティカルハイテック社の親会社である日東電工は、当該労働組合からの団体交渉を拒否し続けている。国が違うとはいえ、団体交渉を拒否するのは不当労働行為だと考えるが、グローバル企業の労働者に対して、労働組合法はどのように適用されるのか?
政府参考人[厚労省]/ 国際的な不当労働行為事件についての審判管轄については(※どの国の法律に基づいて審理するか)、労使紛争が国内において発生しているのか否かが基準となり、日東電工の不当労働行為が救済の対象となるかは、労働委員会で個別に判断される。
大椿ゆうこ/ 労働組合法が属地主義(日本国内で行われる組合活動にのみ適用される)を取っているため、日本の労働組合法を韓国オプティカルハイテックのような争議に適用することが難しい。そこで、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」について、この策定に厚労省は関わったのか?
政府参考人[厚労省]/ このガイドラインは、経済産業省において立ち上げられた検討会の議論などを経て、2022年9月に策定された。この検討会には、民間の団体、学識経験者などの有識者が委員として参加しており、厚生労働省を含む関係省庁がオブザーバーとして参加した。
大椿ゆうこ/ オブザーバー参加ということで、特段この場で厚労省が意見を求められない限り、積極的に発言する立場ではなかったと聞いている。
ガイドライン(2.2.3)には、「人権尊重の取組にはステークホルダーとの対話が重要である」「ステークホルダーは取引先や労働組合、労働者代表等の様々な主体を含む」と書かれている。大臣も、会社が労働者に不利益が及び得る決断をするときは、労働組合を始め、労働者と十分に対話すべきという認識を持っているか。
福岡資麿厚生労働大臣/ 労働組合等との対話については、事業活動を行う国の労使関係等に関する法令を遵守した対応をすることが重要だと考えている。ご指摘のガイドラインでは、企業に求められる人権尊重の取組について解説し、企業の理解を助け、その取組を促すことを目的として策定されたものだ。このガイドラインにおいては、企業が尊重すべき人権の一つとして団体交渉権が挙げられているほか、人権尊重の取組全体にわたって労働組合等のステークホルダーとの対話が重要であるとされている。企業による人権尊重の取組に際しては、本ガイドラインも参考としていただきたいと考えている。
大椿ゆうこ/ ビジネスのグローバル化が進む中で、サプライチェーン内で起こった人権侵害について親会社がしっかり責任を取るために、このガイドラインが策定されたのではないかと考えている。韓国オプティカルハイテック社は日本の日東電工の100%子会社で、経営上の判断は実質的に日東電工が行っていると言われている。一般論として、ガイドラインの精神に基づけば、子会社がその雇用する労働者に対し不利益が及び得る決断をするときは、親会社も当該労働者と十分に対話すべきで、労働組合法が適用されていないといって対話を拒否してはならないと考えるが、大臣はどのような認識か?
福岡大臣/ 海外企業が当事者となる労使紛争については、当該企業が企業活動を行う国の労使関係等に関する法令を遵守した上で、基本的には、労働契約関係にある当事者間で話し合って頂くことが重要である考えている。日東電工の争議は韓国における訴訟事案であり、個別の回答は差し控える。
大椿ゆうこ/ ガイドラインを作っても、日東電工は尊重していないというのが結論だと思う。このガイドラインを広く様々な企業に伝える努力が必要だ。
日本企業の「食い逃げ」を許さない
大椿ゆうこ/ 韓国の禹元植(ウ・ウォンシク)議長のFacebookや韓国平和ニュースの報道によると、1月13日、禹元植議長が岩屋外務大臣に面会し、韓国オプティカルハイテック問題を真摯に伝え、日本政府の関心と協調を要請したという。岩屋大臣が議長から要請を受けたのは確かか?
政府参考人[外務省]/ 1月13日、韓国を訪問中の岩屋外務大臣は、禹元植国会議長を表敬した。その際、双方は、現下の戦略環境の下、日韓関係を維持・発展させていくことの重要性を確認した。また、双方は、長年にわたり日韓の議員交流が活発に続いてきたことを評価し、本年もそうした交流が行われることに期待を寄せた。これ以上の具体的な内容については、外交上のやり取りでもあり、回答を差し控えたい。
大椿ゆうこ/ 議長のFacebookにそう書かれているのだから、嘘ではないと思う。私は、この問題は日東電工一企業の中で留まっている話ではなく、韓国と日本との中での非常に重要な労働争議になっていると受け止めている。日東電工は、韓国にこの工場を造るに際し、税制優遇や土地の無償貸与など、様々な支援を受けて事業を展開していた。今年は日韓国交正常化60年なので、是非、日本企業の食い逃げはやめさせ、真に平等な関係を結ぶべきだと考えている。韓国との間に限らず、今後も日本のグローバル企業が同様の問題を起こすことがあると考えるが、厚労大臣はガイドラインの精神に則り、どのような対応をしていくつもりか。
福岡大臣/ 先ほど言った通り、海外企業が当事者となる労使紛争については、当該企業が企業活動を行う国の労使関係等に関する法令を遵守した上で、基本的には労働契約関係にある当事者間で話し合うことが重要である。いずれにせよ、紛争の予防を含め、良好な労使関係の構築に尽力いただくことが重要である。
大椿ゆうこ/ 外交の場で既に話題になるようなことに発展しているのだから、韓国の中で問題解決してくれと言っていられる段階ではない。是非、これをきっかけに、大臣にもこの問題に関心を持って頂きたい。