大椿ゆうこインタビュー 第3回「多様性のある議会を」

大椿ゆうこ インタビュー

第3回 多様性のある議会を

様々な人が政治参加する
議会をつくりたい

多様な人の政治参加を阻むものは

—初めての選挙、しかも国政です。活動を始めて、あらためて感じることはありますか?

 選挙に出ると決めてから、「選挙って、“出たい”と言って出られるものじゃないんだな」というのをすごく実感してます。周りから「出てくれ」と推されて出るものなんだ、と。
 あまりにもいろんな方から「決意してくれてありがとう」と言われるんで、最初は驚いたんです。でも今は、それぐらい候補者を見つけることが大変なんだということがわかってきました。

 今回、私は「選挙という機会を通じて、非正規労働者で雇い止め解雇に遭い、労働組合を通じて闘った君の意見を広く訴えてみないか」というお誘いがあったので決断に至りました。でも日本の選挙制度は誰にでも開かれていて、誰でも挑戦できる制度にはなっていないですよね。とりわけ国政はね。

大椿ゆうこ
 まず、供託金だけで比例区なら600万、選挙区なら300万が必要なんですよ。元・非正機労働者で雇い止め解雇された人間に、600万なんて金が準備できるわけがありません。つまり無所属で出るのは限りなく不可能に近く、どうしても政党所属になります。

 また、私は解雇された非正規労働者としての経験も含め、労働運動をやってきた実績を買ってもらったわけです。でも、若い人だとキャリアを買われて声がかかるということも少ないですよね。つまり、若い人たちやお金のない人が政治に参加できるような制度になっていない。ここを変えていかない限り、多様な議会、多様性を反映できる議会は実現しないでしょう。

 2015年にカナダでトルドー内閣が発足した時、新内閣30人のうち、男性15人、女性15人と同数を登用したことが話題になりました。女性の数だけでなく、車いすに乗った人、インドにルーツをもつシーク教徒、先住民出身者など多様性に富んでいます。
 日本でも、昨年5月から「政治分野における男女共同参画推進法」(注1)が施行されましたが、カナダのようになるにはまだまだ時間がかかるでしょう。

議会や政治のありようが
社会に反映する

 議会のありようは社会のロールモデルだと私は考えています。日本も多様性のある議会をつくることでそれが周囲に波及し、社会そのものが変わっていくスピードも速くなるはず。そういう意味では、議会は人々が「こういう社会でありたい」というモデルを見せる場じゃないかな。

 韓国・ソウル市の朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長は「労働尊重都市」を掲げ、はじめにソウル市や関連機関で働く非正規職員1万人を正規職に転換しました。この話を聞くたびに、私、泣けてくるんですよ。「あぁ、こういう政治家がいるんだなぁ」って。一方、日本では地方自治体で働く約4割が非正規労働者。「官製ワーキングプア」と呼ばれる人々が急増しています。日本という国が労働者の非正規化をさらに進めていこうとしている姿勢がはっきりと表れていると思います。

大椿ゆうこ
 さらに、今の日本は女性議員が衆議院10.2%、参議院20.7%。地方では女性議員がいない議会もまだまだあります(注2)。障害のある議員も数えるほど。自民党の元幹事長、谷垣禎一さんがケガをされて車いすの生活になり、政界を引退されました。夏の参議院選挙に、比例代表で立候補するよう要請されたのに対し、「人に迷惑かけないように生きていく」とコメントされた時には、「あなたが活躍するのは、むしろこれからじゃないかな」と思いました。

 もちろん、お体のこともあるでしょう。しかしいろんな人のサポートを受ける状況になったからこそ、自民党のトップにいた時には見えなかったことが見え、伝えられること、変えられることがあるんじゃないかなと思うんです。その姿こそ、見せて欲しかったなぁと思うんです。

 最近、韓国や朝鮮民主主義人民共和国、中国をルーツとする人々、性的少数者や生活保護受給者に対する、政治家によるヘイトスピーチ、またはそれに近い攻撃的な発言やバッシングが目立ちます。政治家がそのような発言をすれば、世間の人たちにも広がっていきます。

 橋下徹さんが大阪府知事・大阪市長だった当時、大阪では激しい公務員バッシングと労働組合弾圧が起きました。公然と団体交渉を拒否。私が所属している大阪教育合同労働組合も10件以上の団交拒否に遭い、最高裁まで争いました(全て組合側勝訴)。

 その当時、橋下さんそっくりのことを言う人がけっこういたんですよ。労働組合と聞けばすぐに「既得権益だー」と言いたがる人。最近の流行りは、ダントツ菅官房長官ですね。団体交渉やっているのに、使用者が「あなたに答える必要はない」とか言うんですよ。怒るより笑えてきて、「あぁ、意外と政治を見てるんだなあ」と感心します。
 政治家の言動は間違いなく人々に影響を与える。そのことに自覚的であることが必要だなと思っています。

政治参加の仕組みから変えていきたい

—多様な議会をつくっていくために、大椿さん自身はまず何を訴えたいですか?

 私が選挙に出ると言った時、みんながほんとに体のことを心配して。私も45歳だから、あと数年後には更年期障害が起こるかもしれない。体調が変化していくこの時期に新たな挑戦をするというのは、自分としても覚悟がいりました。ただ、あまりにもみんなが体のことを心配するので、「え、死ぬ気でやらなきゃいけないの?」と逆に驚いて。「ごめんなさい、私、1日8時間労働、定時で帰ってしっかり寝ようというのを訴えたくて選挙に出るんですけど」と。

 さすがに裁量労働制の代表とも言える政治家が毎日定時で帰れるとは思っていません。ただ、「退路を断って、死ぬ気でやらないと選挙に勝てるわけがない」と精神論みたいなことを言われたり、「政治家になったら寝る間もなく、身体を壊すぐらい忙しい」というイメージをみんなが持ってることがわかってくると、なんかすごく気持ちが萎えますね。「私、病気になっちゃうのかな」って。そんな仕事や働き方、誰もやりたくないですよね。私だってやりたくないですよ(笑)。

 こういう発想自体、障害や病気を抱えた人が政治に参画するという前提がないことの表れではないでしょうか。20代の若い友人が、私が選挙に挑戦することを知って、「私もいつか政治に挑戦しよう!」と言ってくれました。彼女は骨形成不全症という障害を抱え、車椅子で生活をしています。今の日本の政治では、彼女が自分の身体を労りながら活動するのは、すごく難しいだろうなと感じました。

大椿ゆうこ 誰にでも開かれた多様な議会にしていくためには、「障害のない、金を持っている、異性愛の男性中心で作られた議会」を変えていく必要があります。まずは高い供託金制度を減額する。そして「政治分野における男女共同参画推進法」ができたように、「政治分野におけるあらゆるマイノリティ共同参画推進法」を作りたいですね。そうやって意識的に多様なバックグラウンドを持つ人々が政治に参加する議会を作っていきたいですね。

 選挙は、「多数決」であり、多数決である限り少数派の声はなかなか届きません。選挙権のない人は、その意思表示の機会もありません。だから、強く意識して多様性を確保しようとしなければいけないし、選挙で選ばれた者は少数者への視点を持たなければならないと思います。

注1:^ 政治分野における男女共同参画推進法

2018年5月23日に「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が公布・施行された。衆議院、参議院及び地方議会の選挙において、男女の候補者の数ができる限り均等となることを目指すことなどを基本原則とし、国・地方公共団体の責務や、政党等が所属する男女のそれぞれの公職の候補者の数について目標を定める等、自主的に取り組むよう努めることなどを定めている。

注2:^ 令和元年版男女共同参画白書(概要)より

外部リンク:令和元年版男女共同参画白書(概要)PDFファイル

聞き手:社納葉子(しゃのう ようこ)
フリーライター。結婚、妊娠出産、離婚を通じて女性の「生きづらさ」「分断」を身を以て知る。子どもに対する自分の「加害性」も。循環して互いの加害を支え合う構造を柔らかい思考で変えられないかと実験中。飲み歩きと観劇が大好き。
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