4月23日(火)は、厚生労働委員会で「雇用保険法等の一部を改正する法律案」に関する法案審議が行われました。パートタイム等、政府が言うところの「多様な働き方」をする労働者が増えていることから、雇用保険の強制加入被保険者要件を週所定労働時間「20時間以上」から「10時間以上」に変更することが柱の一つになっています。その他にも、自己都合退職者に対する求職者給付の給付制限の緩和、リスキリングの促進のための教育訓練給付金の拡大等が盛り込まれています。
今回の法改正は、離職を強いられた際のセーフティネットの強化を目的にしたものですが、保険料の支払いだけを求められ、セーフティーネットからは零れ落ちる人も出てきます。法改正が本当に労働者を救うものになっているか、様々な観点で質問しました。なお、日本弁護士連合会も雇用保険法については、今回の法改正にとどまらない抜本的な拡充が必要との意見書を出して言います。
雇用保険という「失業後」のセーフティーネットだけで労働者の生活安定と権利保障を実現することは出来ません。質問を締めくくるにあたり、首を切られる人を減らすため、「非正規雇用の原則禁止」という「入口規制」が必要だとの考えを厚生労働大臣にぶつけました。
質疑のハイライトをご紹介します(※発言は適宜要約・省略しています)。質疑全体は、参議院インターネット審議中継からご覧いただけます。
労働者の「線引き」は妥当か?
大椿ゆうこ/ 大臣は、失業をして、失業手当の給付手続のためにハローワークに通った経験はあるか?
武見厚生労働大臣/ 自分自身は失業給付の手続をしたことはないが、議員として足立区のハローワークを、また昨年十二月に厚生労働大臣としてハローワーク川崎を訪問し、失業給付の窓口や職業相談窓口を視察した。その他、ハローワークの取組成果等について理解を深めるため、求職者や事業主等との意見交換を行ってきた。
大椿ゆうこ/ 4月のハローワークに行ったことはあるか?
武見厚生労働大臣/ 自分が訪問したのは12月だったが、4月・5月のような年度の替わり目に利用者が多くなると聞いている。
大椿ゆうこ/ その背景にどのような要因があると考えているか?
武見厚生労働大臣/ 採用や退職等の人事が年度の切り替えに合わせて行われることが多いため、毎年3月頃に離職し、4月や5月に失業給付の受給資格決定の手続をする方が多くなるのだと思う。
大椿ゆうこ/ 年度末を機に雇い止め・解雇され、色々な思いを抱えて4月のハローワークに来る人たちがいる。大臣には、是非その時に視察に行き、そこに来られている方々直に話をして頂きたい。今回の法改正の趣旨として、「多様な働き方を効果的に支える雇用のセーフティーネットの構築」が掲げられている。「多様な働き方」という言葉が最近よく使われるが、具体的にどういう労働者・どのような働き方を指しているのか?
政府参考人[厚労省]/ 近年女性や高齢者等の労働参加が進む中で、パートタイム・アルバイトのような雇用形態が増加しており、また新型コロナの世界的流行を経て、働くことに対する価値観やライフスタイルが更に多様になってきていることを念頭に置いて使っている。こうした中で、多様な働き方を効果的に支える雇用のセーフティーネットを構築するため、雇用保険の適用範囲を拡大することにした。
大椿ゆうこ/ 非正規労働者や個人事業主として働いている方が、「多様な働き方」という言葉で置き換えられることが多いため、言葉の意味を確認した。失業手当の受給者において、受給者は、特定受給資格者と、特定理由離職者と、またそれ以外の受給資格者と三種類に分けられている。それぞれの違いが分かるように説明されたい。
政府参考人[厚労省]/ 失業に対する予見可能性の程度に応じて給付を重点化するため、受給資格者を離職理由に応じて区分している。有期契約労働者を例にとると、
- 雇用契約締結時に契約更新がないことが明示されていた人が契約期間満了で離職した場合は、一般の受給資格者と同様に扱う。
- 雇用契約締結時に契約更新の可能性があることが明示されているが確約まではされておらず(「契約を更新する場合がある」とされている場合等)、労働者本人が更新を希望したにもかかわらず更新されなかった場合は、「特定理由離職者(I)(希望に反して契約更新がなかったことにより離職した者)」として扱う。
- 契約更新が一度以上行われ、雇用時点から継続して3年以上雇用されていたが、契約が更新されないこととなり離職した、または雇用契約締約時にその契約が更新されることが明示されたにもかかわらず契約が更新されず離職した場合は、「特定受給資格者」として扱う。
大椿ゆうこ/ 離職理由が会社都合か自己都合かで離職者が分けられているが、労働者が抱える背景は非常に複雑だ。自分の場合、2013年3月末で勤めていた私立大学を雇い止め・解雇され、その際大学が離職理由を「契約期間満了」と書いたため、一般の受給資格者として扱われた。職場とは既に離職理由や解雇の妥当性を巡って争っており、仮給付という方法で受給した経験がある。長時間労働を強いられる、有給が取得出来ない、職場でパワハラ・セクハラに遭う、恒常的な業務なのに有期雇用にさせられている等、問題は労働者より会社の側にあり、仕事は失いたくないが、やむを得ず離職を迫られる労働者がいる。厚労省に、その現状認識はあるか? その上で、自己都合退職として扱われ、特定受給資格者のような枠から零れ落ちる労働者をどうすれば救えるのか、厚労省の考えは?
政府参考人[厚労省]/ 離職理由について労使間で争いが起こる場合、事業主・離職者の主張をまず聞き、離職者・事業主から必要な資料を収集した上で、ハローワークが判断する。事実確認が難しい場合は、客観的な資料の有無だけで判断せず、例えば職場の同僚等の意見を聴取することにより、ハローワーク利用者の状況に寄り添って必要な判断を行うよう努めている。
大椿ゆうこ/ 労働者と使用者とは非対称な関係にあり、労働者側が自己都合離職でないと主張しても、使用者側が「労働者の自己都合」との主張を覆すことは、まずない。労働者が弱い立場にいるということをよく考え、あくまでも労働者の福祉向上のためにはどうすべきかということを考えて頂きたい。雇用保険法6条4項は学生・生徒を雇用保険の適用外にしており、今回の法改正でも適用外のままである。現在の学生の親世代は、自分のようなロスジェネである。その子どもにあたる今の学生たちは、親の収入に大きく影響を受け、アルバイトで学費・生活費を賄っている。相変わらず学生を雇用保険の適用対象に含めない根拠は何か?
政府参考人[厚労省]/ 雇用保険による給付を受ける前提として、積極的な求職活動をすることが前提になっている。学生が経済的な不安なく学業に勤しむことの重要性は十分認識しているが、学生は学業が本分であるため、雇用保険の対象にすることは雇用保険制度の趣旨には馴染まないと考える。