大椿ゆうこインタビュー 第7回 一緒に生きている

大椿ゆうこ インタビュー

第7回 一緒に生きている

この街に一緒に暮らす仲間として
外国人の権利を守る

すでに私たちは、一緒に生きている

ー大椿さんのパートナーは、外国人なんですよね?

 はい、スペイン・バルセロナ出身のカタルーニャ人です。最初は選挙の中で、それをオープンにすることには抵抗がありました。日本に限らず、世界的にも排外主義の空気が広まりつつある今、「外国人をつれあいにもつ」ということが選挙活動にどう影響するだろうという不安と、彼にバッシングの矛先が向けられるんじゃないかという不安があったんです。

一緒に生きている

 それと、これは労働組合の執行委員長をしていた時から意識してきたことですが、弾圧の材料に使われるかも知れないという恐怖がありました。労働運動の歴史は、国家権力からの弾圧にどう対峙してきたかという歴史だとも言えます。今、連帯ユニオン関西地区生コン支部に向けられている苛烈な労働組合弾圧を見てもわかるように、どんな無理筋な理由でも、逮捕しようと思ったら逮捕する、それが国家権力というものです。

 彼の在留資格を取る時、「身元引き受け人」として、ありとあらゆる私の情報を提供しなければなりませんでした。私の勤め先、収入、納税状況、出会いから結婚に至るまでの経緯、双方の親族の名前、連絡先。それ見たらわかりますよ、外国人は犯罪者予備軍扱いなんだなぁって。書類を提出した時、私の個人情報、国家に全部握られたなと思いました。うちの組合を弾圧するために、これらの情報が都合良く使かわれるかもしれない、私が逮捕されるならまだしも、彼を拘留すると言う形で弾圧されたらどうしようと。大げさかもしれないけれど、執行委員長として、そういう緊張感は常にありました。だから、国政に挑戦すると決めた時、出来るだけ彼のことは表に出したくないなと思っていたんです。

 でも、選挙の制作物を担当してくれているデザイナーの友人が、「あんた闘う写真しかないんだから、和む写真入れといたよ!」と勝手につれあいの家族との写真を入れてデザイン仕上げて来て、まぁいいかとそのままに。

 考えたら、選挙で「外国人労働者」の問題や「共生」を訴えていくなら、自分自身の選択や暮らしが何よりの「実践事例」ですよね。理屈であれこれ正論言うより、実体を見せた方がわかりやすい。入管にいろんな情報を提出した結果、彼が在留資格を得て、健康保険証を手にしたとき、「これで病気をしても大丈夫」と、心底安堵したのを覚えています。それくらい、日本人と外国人の間では、圧倒的な立場の差があるんです。
 私のツイッターの「#すでに私たちは一緒に生きている」というメッセージは、まさに私と彼のことであり、人口の25%が在日韓国朝鮮人で、60ヶ国以上の国籍の人々が暮らす大阪市生野区に暮らすことを選んでいる私たちのことだからです。

大椿ゆうこ

問題だらけの在留資格「特定技能」

 排外主義の流れは今や世界的ですが、日本では特に韓国や朝鮮民主主義人民共和国、中国に対するヘイトスピーチが激しさを増しています。政治家がそれを煽っている状況も見過ごせません。東南アジアの人に対する差別も根強いですよね。

 にもかかわらず、昨年の暮れぐらいから急に国会で「外国人労働者受け入れ拡大」なんていう話が出てきたのには驚きました。国会では「外国人材」という言葉がしきりに使われていましたよね。外国人を人手不足を補う、いくらでも代わりのきく「労働力」としか見ていないところに、外国籍のつれあいを持つ当事者として寒気がしました。

 審議時間はたったの17時間、法律の中身も具体的に決められていないまま、ほぼ白紙状態で、昨年12月8日、改正入管法が強行採決されました。外国人技能実習生の問題に取り組んで来た労働組合やNPOが、当事者である外国人技能実習生とともに、最賃以下の賃金、長時間労働、労災隠し、セクハラやパワハラなど、現場の実体を告発し、「制度の根本的な見直しを」と反対の声を上げたのに、技能実習制度から移行できる「特定技能」の在留資格の創設が決まってしまいました。

 「特定技能」は、深刻な労働力不足に陥っている業界を対象に、これまで認められていなかった「非熟練労働」に外国人を従事させる制度です。特定技能1号は在留期限が5年までと限られており、家族の帯同は認められていません。一方、家族が帯同でき、永住につながる「特定技能2号」へと移行できる業種は、「建設」と「造船・船用工業」の2業種のみに限られ、施行後しばらくはその移行を見送るとされています。

 ただ、「技能実習」とはちがって同じ分野ならば転職も可能、ということですが、日本の国内での賃金格差から見て、みな地方から都会への転職を希望することになるのではないかと推測します。

差別構造を温存する技能実習制度

 外国人労働者の労働争議を多く担当している、ある労働組合の方が、外国人技能実習制度について、こんなこと言っていました。「経営者だって、もとから悪い人間じゃない。良心ある経営者を悪人に変えてしまうのが、外国人技能実習制度だ」と。外国人技能実習生を受け入れている中小企業も、取引先から安く買い叩かれている状況があるのではないかと思われます。そのなかで「安い労働力」として、外国人技能実習生が使われているのでしょう。こんな状況を野放しにしたまま、外国人労働者の受け入れ拡大を行えば、差別構造も温存され、中小企業の根本的な苦しさも変わらないのではないでしょうか。

 法律上は登録支援機関がサポートするとはいえ、実際に、外国人労働者を受け入れるのは自治体です。たとえ期間を区切ったにしろ、数年間を日本で暮らす以上はさまざまなサポートが必要です。病気や事故もあるでしょう。それを担えるだけの人手や予算をどう確保するのか。多くの自治体は頭を抱えているんじゃないでしょうか。

労働法制には国境はない

 ちなみに労働者の団結権を規定している憲法28条は「国民」とは書いていません。「勤労者」となっているんですよ。国籍は関係ない。私は憲法28条のそこにグッと来ます! 労働基準法など、労働関連の法的枠組みにはすべて、外国人も含まれているんです。だから私たちはすべての労働者について、使用者に労働諸法を守らせるという運動をしていかないと。
 今こそ、外国人労働者をより安く、よりこき使う関係性を克服し、国籍に関係なく尊厳を持った働き方のできる社会を作っていきたいなぁと思っています。

定住外国人へ地方参政権を

 今、日本は人口が減り、外国人の移住者は増えています。この傾向は変わらないでしょう。だとしたら、これから先も、日本国籍の人だけで選挙をするつもりなのかな?などと考えたりします。
 例えば私のつれあいが生まれ育ったスペインでは、外国籍のままでも地方参政権があります。外国籍でも自治体選挙に立候補できるし、投票もできる。国政選挙についてはスペイン国籍をもった人に限定されるから、国籍を変える必要がありますが。つれあいが私と暮らすために日本に移住してくれたことは嬉しかったですが、そのことによって、彼が日本に住みながらも、この先ずっと選挙権がないのかと考えると、強い罪悪感を感じています。自分が逆の立場だったら、やっぱり選挙権がないのは嫌だから。
 それと人口の25%が在日韓国朝鮮人の方が住んでいる生野区に暮らしていると、選挙の話をしても、「まっ俺、選挙権ないけどな」という返事に、すごい高い確率で出会うわけです。日本で生まれ、日本で育って、日本で働いて税金も納めているのに投票出来ない。今の政治に憤りを感じていても、投票出来ない人たちがいる。そういう人たちが身近にいるので、日本国籍を持つ者だけに限定されている今の選挙制度について、疑問を抱くわけです。しかもその半数近くの有権者が選挙に行っていないとなれば、なおさら! 今後、外国人地方参政権について、具体的な議論が始まれば良いなと考えています。排外主義が吹き荒れる中で、外国人地方参政権の話は最近遠のいてしまった感がありますが、私はそこを目指しています。私たちはすでに一緒に生きているんだから。

大椿ゆうこ

聞き手:社納葉子(しゃのう ようこ)
フリーライター。結婚、妊娠出産、離婚を通じて女性の「生きづらさ」「分断」を身を以て知る。子どもに対する自分の「加害性」も。循環して互いの加害を支え合う構造を柔らかい思考で変えられないかと実験中。飲み歩きと観劇が大好き。
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