大椿ゆうこインタビュー 第6回 不当な弾圧を許さない

不当な弾圧を許さない インタビュー

第6回 不当な弾圧を許さない

権力に対し声をあげ続けるために

政治家の言動が及ぼす影響

ーこの間の大阪の労働運動をめぐる状況をどう思いますか。

 橋下徹さんや、彼が結党した大阪維新の会の存在を抜きにして、その事は語れませんね。2008年に橋下徹さんが大阪府知事になり、その後、自らが掲げる大阪都構想の実現を目的に、任期を残して知事を辞職し、現職だった平松邦夫さんを破って大阪市長になりました。その後から、大阪ではすさまじい公務員バッシングと労働組合弾圧が起きました。

 まずは大阪市職員に対する思想調査です。平松邦夫さんとの市長選の時、労働組合の人たちが平松さんの応援に入ったことをよく思わなかった彼は、職員に対して、組合に加入しているか、誘ったのは誰か、特定の政治家を応援する活動に参加したことがあるかなどのアンケート調査を強制したのです。質問の内容は、「あなたは、この二年間、特定の政治家を応援する活動に参加したことがあるか」「自分の意思で参加したか、誘われて参加したか」「誘った人は誰か」「組合活動に参加したことがあるか」「自分の意思で参加したか、誘われて参加したか」「誘った人は誰か」など、政治活動への参加の自由、思想・良心の自由を侵し、職員の団結権等を踏みにじる内容でした。なおかつ、「任意の調査ではない。市長の業務命令」「正確な回答がされない場合は処分の対象となる」などとし、職員に回答を迫るもので、大阪市職員はもちろん、大阪の労働組合・労働者弁護団には激震が走りました。ここまであからさまな不当労働行為(※注)を、弁護士でもあり首長である人物が堂々とやることに、私たちは怒りと危機感を覚えました。

不当な弾圧を許さない

 大阪市労働組合連合会(市労連)は、すぐさま大阪府労働委員会(府労委)に実効確保の措置勧告の申し立てを行ない、異例のスピードで府労委は対応。大阪市に対し、不当労働行為の「支配介入に該当するおそれのある質問項目があるといわざるを得ない」として、府労委での結論が出るまで、アンケートを凍結するよう「実効確保の措置勧告」を出しました。この「実効確保の措置勧告」は滅多に出されませんから、この事件がきわめて重大な不当労働行為であったことを表しています。

 この事件は後に、府労委でも中央労働委員会でも不当労働行為が認定され、橋下徹さんは組合に対し、再発防止の誓約書を手渡しました。

 その他、入れ墨調査もありましたし、組合が市役所内に組合事務所として部屋を借りていたというのが問題とされ、退去を求められるということもありました。職員の給与から組合費を天引きする「チェックオフ」制度も廃止にされました。これは、労働組合弾圧の典型的な方法ですね。当時、頭がこんがらがるほど、次から次へと労働組合への弾圧が行われる中で、私たちは個別の労働組合の枠をこえて団結し闘いました。橋下徹さんが大阪の政治の現場からいなくなった今も、当時の問題と闘い続けている人たちが、大阪にはたくさんいることを忘れてはいけません。

 でも思うんですよね、橋下徹さんにとっては、労働委員会や裁判でどんな判断が出ようがどうでも良かったんじゃないかって。裁判費用は全部、私たち府民・市民の税金から出されているから、自分の懐も痛くないし。普通、「私は法律の専門家だ」と事あるごとに言う人物が、あんなわかりやすい不当労働行為しませんから。
 思想調査、入れ墨調査等を行なった段階で、職員は恐怖に陥り萎縮しました。「回答しなければ処分」され、給料を下げられたり、仕事を失うかもしれないわけですから当然です。また、密告や仲間を売るようなことを求め、職場に疑心暗鬼を増幅させました。彼の最大の目的は労働者同士の分断だったと思います。自分に刃向かう者は絶対に許さない、そういう恐怖政治を示すだけで効果があることを彼は知っていたし、その段階で、彼の目的の9割がたは達成していたと思うんですよね。私はそこが一番恐ろしいです。

不当な弾圧を許さない

 こうした橋下維新政治の流れのなかで、大阪教育合同組合(以下、教育合同)も、大阪府・大阪府教育委員会、大阪市・大阪市教育委員会から、団交拒否を受け続けてきました。その数、大阪府が10件、大阪市が1件。組合勝利の最高裁判決を勝ち取り、全て組合側が勝利しましたが、長い、長い闘いでした。団交出来ない労働組合に、労働組合の存在意義はありませんからね、組合の弱体化を狙った団交拒否でした。
 この団交拒否事件は5年間かけて解決に至りましたが、大阪府教育委員会の不誠実さは相変わらずです。質問しても、用意した回答を繰り返すばかり。維新政治以前の大阪府教育委員会の対応を知る先輩たちは、職員のあまりの劣化に驚いています。私たちにとって、維新政治との闘いは今も現在進行形です。

 橋下維新政治により労働組合弾圧を受けていた時、私たちは、ドイツの牧師で反ナチス運動の指導者でもあったマルティン・ニーメラーさんの有名なスピーチを思い出していました。

 ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった
 私は共産主義者ではなかったから

 社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった
 私は社会民主主義者ではなかったから

 彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった
 私は労働組合員ではなかったから

 そして、彼らが私を攻撃したとき
 私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった

 この時、私たちは、ニーメラーさんの詩の当事者でした。

 首長が率先して組合弾圧を行う。違法だろうが、裁判で負けようが、おかまいなし。メディアを利用して、自分の言い分が正しいかのようなイメージをふりまく。まさに権力の濫用です。この維新政治のやり方、大阪だけに留めておいて終わりにさせたかったけれど、すっかり全国化されてしまったなぁと、今の政権を見ていると思います。

 私が特に嫌なのは、他党に対する最低限のリスペクトもなく、嘲笑を交えて誹謗中傷、執拗な攻撃をする政治家が増えたことです。維新は共産党に対して、自民党は、と言うより安倍首相は民主党やそこに属していた政治家に対して。「あの悪夢の民主党政権」とかよく言うでしょ?あれです、あれ。政治家の品位やレベルが、維新登場以降、確実に下がりまくって、それを恥ずかしいとも思わない政治家が増えたなぁと思います。そういう負の感情を増幅させる今の政治に、身も心も汚染されそうで耐えられないです。

 社民党の土井たか子さんは、生前こんなことを言われていたそうです。「政治家の仕事は希望を組織化すること。してはならないことは差別や憎しみを扇動する負の組織化」今の政治は、残念ながら後者だと言わざるを得ません。

 政治家は、自分の言動がどう社会に影響を与えるのか自覚し、発言する時には慎重さが必要だと思います。私は労働運動を通じて、先輩たちから、物事を多面的に検討することの大切さを教わりました。いろんな人の立場から物事を考えてみる姿勢です。これからもその姿勢を忘れずにいたいと思っています。

労働組合に対する
不当な弾圧をゆるさない

 今、大阪では大きな労働組合弾圧が再び行われています。連帯ユニオン関西地区生コン支部(関生)への大弾圧です。くわしい内容はこちらを参考にしてください(http://rentai-union.net/)。ストライキを「威力業務妨害」、職場の法律遵守違反の告発を「恐喝」、抗議を「強要」、組合活動を「組織犯罪」、労働組合を「組織犯罪集団」と言い換えて、現在も13人の長期拘留が続いています。抗議が「強要」になるなら、私なんか毎日のようにやってましたから、私も逮捕されちゃうんでしょうかね?

不当な弾圧を許さない

 しかしメディアは、警察発表をそのまま報道するだけで、少し調べればすぐにわかる背景事情も報道しなければ、ストライキは労働組合の正当な権利だということも伝えません。報道も政治家も、この大弾圧を無視しようとしています。憲法28条に喧嘩を売るこの大弾圧を、労働組合員である私は当然無視することはできません。それ以前に、大阪で一緒に運動して来た仲間として、関生に対する大弾圧には抗議の声を上げ続けています。

 この大弾圧を放っておけば、あらゆる労働組合活動が犯罪として扱われるようになり、その内、憲法28条に保障された労働三権を奪われる時代が来るという危機感があります。それは全ての労働者に影響します。

 わたしが憲法の中で一番好きな28条には、こう書かれています。
「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」

 シンプルかつ明確に、具体的に労働者の闘う権利を保障している憲法28条は、使用者や大企業、国家権力にとっては目の上たんこぶ。でも、この権利を失ったら、労働者は闘う方法を失います。
 労働者と使用者は対等と言われるけれど、実際には、使用者の方が圧倒的な権力を持っています。弱い者たちが生きていくためには、つながりあうこと。力をあわせて立ちあがり、声を上げること。労働運動は、その実践です。それが憲法に明記されていることに感動します。私は、憲法28条を守り、活かすために頑張りたい。今まではそれを労働組合でやってきましたが、権力側の横暴がひどくなっていく今、国会の中で砦になりたいと思っています。本気です!

不当な弾圧を許さない

注:^ 不当労働行為

労働組合に対する使用者側からの妨害行為。不利利取り扱い、団体交渉拒否、支配・介入など。労働組合法7条に定められている。

聞き手:社納葉子(しゃのう ようこ)
フリーライター。結婚、妊娠出産、離婚を通じて女性の「生きづらさ」「分断」を身を以て知る。子どもに対する自分の「加害性」も。循環して互いの加害を支え合う構造を柔らかい思考で変えられないかと実験中。飲み歩きと観劇が大好き。
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