大椿ゆうこインタビュー 第5回 労働運動が教えてくれた「変わるのは私たち 変えるのも私たち」

大椿ゆうこ インタビュー

第5回 労働運動が教えてくれた

「変わるのは私たち、
変えるのも私たち」

あきらめていた労働者が声を上げる瞬間

大椿ゆうこ

—2013年、3年9ヶ月にわたった大椿さんの労働争議が終結。そして大阪教育合同組合(以後、教育合同)の専従役員として本格的に働き始めましたね。

 私の争議を担当してくれた専従役員の方からの誘いもあって、争議中も教育合同の仕事を手伝っていましたが、争議終結後は腰を据えて、私も専従役員として働くことになりました。

 2014年にその方が退くことになり、専従役員は私ひとりになりました。小さな労働組合ですから、専従役員は何でも屋です。労働相談、団体交渉(※注)(以下、団交)はもちろんのこと、組合費の管理、機関紙の発行、集会の企画、共闘労組や市民団体とのやりとり等。時々手伝いに来てくれる人はいましたが、基本的には自分で仕切らなければなりません。労働組合の既得権益とか、どこの話だって感じです。

 特に団交は、最初の頃、毎回ドキドキしながら憂鬱な気分で行っていました。たいてい使用者側で出てくるのは私より年配の男性たちで、「若い、女のおまえが出来んのか?」みたいな見下された言動を取られることもありました。場数を踏んで、相談から解決まで争議を一通り担うようことが出来るようになって、少しずつ手応えを感じるようになりました。

 私は団交の前に、当事者である労働者に毎回こう伝えます。「団交の流れは私が仕切りますが、あなたが相手に対して言いたいことがあったら、自由に言ってください。後のことは私が責任を持ちます」と。すると、たいてい「いえ、怖いので自分は何も言えません。大椿さん、全部やってください」と言われるんです。団交なんてやったことないからどんなことになるのか想像つかないし、自分の職場の上司と対峙するなんて普通怖いですよね。だから、そんな風に言うのもわかります。

 しかし、いざ団交になると、何が何でも辞めさせたい使用者は、当事者に容赦なく酷いことを言ってくるわけです。すると「自分は何も言えない」と尻込みしていた当事者が、怒りを抑えきれず、自分の言葉で突如反論をし始めるんです。特に女性たちが多いかな。その姿がね、ホント美しいんです!「あっ、今、私、すごく美しい瞬間に立ち合ってる! 労働者が立ち上がりはじめた瞬間に立ち合ってる!」って思って。「こういう美しいものを見るために、私はこの仕事をやっているんだなぁ」と、自分自身が労働争議に携わる意義を感じるようになりました。

 昨年、こんなことがありました。兵庫県伊丹市に雇用されている、小学校英語指導補助員たちが複数人で組合に加入し、時間外労働に対する賃金未払いや、有給休暇が付与されていないことなどについて、伊丹市・市教委と団体交渉を行いました。契約期間は6ヶ月ごと。時給は1500円ですが、年間の労働時間は少なく、仕事を掛け持ちしなければ生活できません。

 彼女たちも最初は、「自分は何も言えません。大椿さん、全部やってください」と言っていたわけですが、蓋を開けたら、団交でガンガン反論しまくるわけです、よってたかって! 数年越しで不満に思っていたことを、堰を切ったように話しはじめ、伊丹市・市教委もタジタジでした。労働者が自分の言葉で語りはじめ、権利のために立ち上がる瞬間です。もうその姿が美して、美しくて。「ずーっと、こういう美しいものを見ながら暮らしたいなぁ」と思わせてくれました。

講師の完全雇用を保障せよ

 この争議は、3度の団交を経て合意に至りました。3つの点で、大きな成果を得た争議でした。

 まず、未払い賃金の支払いを、労基署(労働基準監督署)の是正勧告なしで、団交で解決したこと。それまでにも教育合同では、大阪府・府教委と非常勤講師の未払い賃金問題で争ったことがありましたが団交では解決せず、大阪府・府教委は労基署の是正勧告を受けてから対応しました(その後も大阪府・府教委は、同じ内容でさらに2回の是正勧告を受けた)。

 次に、過去2年分の遅延損害金を支払わせたこと。先に上げた大阪府のケースでは、遅延損害金を払うよう要求しても、大阪府は意地でも払いませんでしたね。そろそろみなさんも、大阪府がどんだけケチで、法律守らないところかわかってきたでしょ?

 最後に、団交で合意した事項に関し伊丹市・市教委と協定書を交わしたこと。たいていの自治体は、書面に残すのを嫌がりますから、労働組合と協定書を交わすのを拒否します。しかし伊丹市・市教委は当然のように協定書にサインをしました。良い前例になりました。

 公立学校で働く女性非正規労働者たちのすばらしい闘いでした。長年、多くの疑問や不満を抱えながら働いてきた彼女らは、労働組合に加入し、団交で解決する道を選び、劇的な成果を手にしました。賃上げや労働条件は「闘って勝ち取るもの」、それを実感したことでしょう。あのまま黙っていたら、何も変わらなかった。闘う道を選んだから、自らの手で変えることが出来たんです。

「ちゃんと怒る」体験が
その後の人生を支える

 労働相談に来られた方は、必ず「どれくらい時間がかかりますか?」「勝てますか?」と聞いて来られます。想定出来ることは伝えますが、「勝つか負けるか」断言することはできません。労働争議は時間もかかるし、必ずしも自分たちの望むようにはいかないものです。だけど、不当な扱いに対し、ちゃんと声を上げたか、上げられなかったかは、その後のその人の人生を大きく左右すると思っています。

 こんな人がいました。2度目の雇い止めになりそうだと相談に来られた女性です。1度目の雇い止めは彼女の妊娠が理由でした。その時はあきらめて、出産後、違う職場で働きはじめたそうです。そして2度目の雇い止め通告。「妊娠を理由に雇い止めされた時、後になって闘わなかった自分を悔やみました。だから今回はあきらめちゃいけないと思って相談に来ました」と話してくれました。やはり、不当な扱いに対して黙ってあきらめたという経験は後々まで尾を引くんですね。

 自分が不当に扱われたことに対して、「ちゃんと怒る」という一歩を踏み出せた人は、次に何かあった時にも闘えると思うんです。その一歩は、争議に勝つか負けるかということ以上に、人生そのものにとって大事な一歩を踏み出したことになるんじゃないかと私は考えています。だから、「この先も理不尽な気持ちを抱えて生きるくらいなら、ここでしっかり闘うことをおすすめします。その体験は必ずあなたをたくましくします」と伝えています。勝ち負けはわかりません。しかし闘わなかった者には、勝ちはやって来ません。労働運動は生き物なので、動けば必ず何かの変化が起きます。

最低賃金1500円を実現するには

—最近、「最低賃金1500円」を公約に掲げる政党が増えてきましたね。

 社民党も私自身も、「最低賃金今すぐ1000円、そして1500円に」を公約で掲げています。ただ私は、「賃上げは闘って勝ち取るものだ」と思っているので、お上から与えられる形で最低賃金1500円が実現しても、必ず巻き返しがあるだろうと考えています。だから少し時間がかかっても、「私たち労働者の力で最低賃金1500円を勝ち取った!」と実感出来る運動をみんなと作っていきたいんです。

 2016年にアメリカのシカゴに行き、現地の労働運動に触れました。ファストフード店の労働者が最賃(最低賃金)15ドルを求める運動・Fight for 15$に取り組む人たちとも交流しました。2012年頃、ファストフード店の労働者約200人のストライキで始まったこの運動。当時の最賃は7ドルで、倍に引き上げろと言う彼らの要求はバカにされていました。しかしこの運動はアメリカ全土に広がり、そして日本を含む世界中に広がり、2019年2月、シカゴがあるイリノイ州は最賃を15ドルに引き上げることを決めました。シカゴのファストフード店労働者の要求が実現したのです。

Fight for 15$

 彼・彼女らは、ただ最賃が上がるのを黙って待っていたのではありません。マクドナルドで働いている24歳のチカーノ(メキシコ系アメリカ人)のシングルマザーが、自分の体験を話してくれました。彼女は職場の同僚たちと連帯し、2年間で3度の賃上げを実現。毎日必ず同僚たちと一緒に出勤し、使用者に自分たちの連帯の強さをアピールしていたとか。それを聞いて思ったんです。やっぱり、それぞれの職場で闘うことの積み重ねの先に、最賃15ドルがあるのだなぁと。

 日本で最賃1500円を実現するには、しばらく時間がかかると思いますが、自分の職場で賃上げ交渉をすることは明日からだって可能です。その闘いの積み重ねの上に、私は最賃1500円を引き寄せる力が生まれるのだと思っています。

Fight for 15$

 職場の仲間と連帯するとか、労働組合作るとか、団交するとかって、実は最賃1500円を掲げる候補者に投票するとか、路上に出て最賃1500円を叫ぶデモをするより、よっぽど難しくて、根気がいって、しんどいことなんですよ。選挙で投票するなんて、職場の仲間と連帯すること考えたら、マジ楽勝なのに、なぜ有権者の5割が選挙行かないんだろう? その難しくて、根気がいって、しんどいことを避けて、どうにか最賃1500円を実現してもらおうとと思っている労働者が多いうちは、最賃1500円は実現しないと思っています。例え実現したとしても、巻き返しが起きた時、闘う基礎体力を身につけてないから、また別の課題の時に簡単にやり込められると思っています。
 最近は、安倍政権の要請に応じて賃上げを行う「官製春闘」なんて言葉がありますが、労働者のための春闘に、首相が口を挟む余地はありません。でしゃばるなと思います。労働者の闘う力を骨抜きにするようで、腹立たしいです。

 だからこの機会に、闘う基礎体力をみんなでつけて、「私たちの力で最賃1500円勝ち取った!」って言い合いたい! 私の「最低賃金今すぐ1000円、そして1500円に」という公約の背景には、こういう思いが含まれています。

 有権者の中に、「政治家が変えてくれる」と期待する空気があります。私は政治家が社会を変えてくれるとは思っていません。政治家がまっとうな仕事をするためには、その背中を押す市民の力が必要だと思っています。私は、お任せ政治を託されるのはごめんです。私は、みんなと一緒に社会を変えていきたいんです。「変わるのは私たち 変えるのも私たち」、私たちの意識が変われば、政治も社会も変えられると思います! みなさん、大椿ゆうこと一緒にやりませんか?

注:^ 団体交渉

個人では立場の弱い労働者は、労働組合に加入することにより、対等に使用者側と交渉することができる。使用者側は原則として団体交渉を拒否することはできない。
憲法28条および労働組合法によって保障された権利。

聞き手:社納葉子(しゃのう ようこ)
フリーライター。結婚、妊娠出産、離婚を通じて女性の「生きづらさ」「分断」を身を以て知る。子どもに対する自分の「加害性」も。循環して互いの加害を支え合う構造を柔らかい思考で変えられないかと実験中。飲み歩きと観劇が大好き。
大椿ゆうこインタビュー
第6回 「不当な弾圧を許さない」 を読む
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