貧困ビジネス対策に関する国会での議論
当事者のお2人の貴重な証言から、悪質な無料定額宿泊所があること、そして役所が悪質な貧困ビジネスに人を紹介して定着させてしまっていることが明らかになりました。それを受けて、大椿ゆうこが自ら視察した貧困ビジネスの現場と、それを受けて行った国会での質問について報告しました。
昨年春に大椿ゆうこが訪れた場所も、市役所・福祉事務所が紹介している無料定額宿泊所でした。カーテンはクラフト紙、2万円を徴収されて用意された布団はネットで5000円弱で売っていたもの、食材の買い物では乾麺とめんつゆ程度しか買わせてもらえず、その上実費以上のお金を徴収される、という酷い手口が使われていました。何より問題なのは、入居時に「生活保護の受給が出来なかった場合には、物件から退去すること」「生活保護の受給が確認できた段階で、2年の賃貸借契約を改めて締結すること」という覚書を交わさせていたことです。生活保護受給者を2年以上にわたって入居させ、保護費を搾り取ろうという業者の魂胆が判ります。
この問題について、大椿ゆうこは消費者問題に関する特別委員会、及び厚生労働委員会(生活困窮者自立支援法等の改正に関する審議)で取り上げました。大椿ゆうこらの指摘を受け、昨年の参議院厚生労働委員会では生活困窮者自立支援法改定案について、「貧困者の窮迫に付け込む貧困ビジネスの実態と原因について把握し、必要な対策を講ずること」との附帯決議が付けられました。
そのこともあって、2024年度補正予算で、「貧困ビジネス対策事業(4.2億円)」が計上されました。この事業は、「無料低額宿泊所に関する情報収集・共有の強化」と「被保護者(※生活保護受給者のこと)に対する助言・支援の強化」から成り立っており、自治体が無料定額宿泊所等の実態を調査したり、都道府県・市町村間等で情報共有をする会議を持ったりするための補助金を支給することになっています。
法律家が見る「無低」の問題
大椿ゆうこの報告の後は、貧困問題に取り組む常岡久寿雄弁護士・増田尚弁護士が、貧困ビジネス規制についての法律家としての意見を述べられました。常岡弁護士は、無料定額宿泊所には無届けの事業所があること、「無料」といいつつ住宅費以外に様々な名目で高額のお金を徴収していること、外部との連絡を許さず「金銭管理」の名目でお金も渡さないこと、入居期間が限定されず自治体による転居費用の支援が認められにくい結果、入所が長期化して社会復帰が困難になる等の問題があると指摘しました。増田弁護士は、貧困ビジネス業者の広告には不当表示が多いため広告規制が必要であり、また、「金銭管理」のような住宅を居住に使用することの対価以外の名目とする費用徴収への合意を賃貸借契約締結の要件とすることが認められるかについて疑問があることから契約内容規制も考えるべきだと問題提起しました。
厚労省を交えた意見交換
一連の報告の後、貧困ビジネス被害当事者・支援者、そして厚労省の担当者が意見を交わしました。
9か月間施設にいた経験を語った女性は、身体障害者の入居者が退去者の亡くなった居住者の部屋の掃除と言った過酷な「ボランティア」に今も従事させられており、彼らは自分同様、ボランティア代がないと食べていけないことに加え、「ボランティア」をちゃんとやれば施設から出られると思って辛い作業を行っていて、「自分がこうして施設を出て生きているのが申し訳ないと思うくらい」だと厚労省の担当者に訴えました。
支援者側からは、家のない人がアパートを探すために一時的に入居できる施設が無料定額宿泊所しかないが、無料定額宿泊所に入ればなかなか出られないという矛盾が生じているとして、家を探す人が暫く過ごせる場所として公営住宅を活用できないか、と提案がありました。また、生活保護を申請したくても、無料定額宿泊所に入れられるのが嫌で申請を避ける人がいるとして、「無料定額宿泊所の利用は原則ではない」「無料定額宿泊所は一時的な滞在場所だ」と周知すべきとの意見が出ました。さらに、無料定額宿泊所の最大の問題はケースワーカーも含めて第三者の目が届かずブラックボックス化していることだという指摘もありました。
大椿ゆうこは、厚労省の担当者に対し、「今日集まっているような支援者から情報を集め、現状を把握して欲しい」と要望しました。厚労省の担当者は、貧困ビジネス規制の実施主体が自治体であるため厚労省として直接出来ることに限界があるという見解を滲ませつつ、引き続き意見交換をしたいという意思を示しました。
「作戦会議」の最後、「反貧困ネットワーク」の瀬戸事務局長は、無料定額宿泊所しか支援リソースがないことが問題だと強調した上で、市役所の現場で対応にあたるケースワーカー等の職員が非正規であることも改善しなければならないとの考えを示しました。その上で、厚労省とは対決構造を作るのではなく、連携を強めていきたいと呼びかけ、集会を締めくくりました。