渋る人道調査室
対する人道調査室長は、人道調査室が毎年確保している1200万円ほどの予算は日本国内の寺院等にあり、返還可能な韓半島出身者遺骨の調査・一時保管や、その返還に係る交通費のためのもので、長生炭鉱の工事費への「流用」は困難と回答しました。また、「遺骨の位置・深度等が明らかでなく、80年以上前に落盤事故が発生した場所であることから安全性への懸念があるため、実地調査という実務に照らし対応可能な範囲を超えている」と、従来の国会答弁を送り返し、現地視察すら難しいとの認識を示しました。今後の意見交換については、大臣から「まず事務方で議員や市民団体の話を聞くよう言われている」とし、「刻む会」が説明した内容を大臣に伝えると約束しました。
外務省は、ご遺骨の早期返還が重要だということは韓国と認識を共有しているとし、人道的観点から可能な限り真摯に対応していきたいとの姿勢を述べました。ただ、長生炭鉱については安全性の懸念があるため現時点で遺骨収容が困難だと承知しており、韓国政府と引き続き緊密に意思疎通を図りたいと言うに留まりました。実地調査については、厚労省の説明に尽き、今のところ現場を訪問する考えはないとのこと。大臣との懇談については、要望をしっかり持ち帰り検討したいとのことでした。
遺骨調査に消極的な理由として、人道調査室長は安全性の懸念を挙げます。そこで、安全性を向上するために坑口の補強等の支援が欲しいというと、予算の流用は出来ないと返します。その繰り返しが続くので、大椿ゆうこが「予算を寺院での調査に限定する法的根拠はあるのか?」と聞くと、「実地調査として現実的に対応可能な範囲を超えている」という答えに戻ります。結局、予算の使途が法律で限定されている訳ではなく、あくまで概算要求時の要求項目に長生炭鉱を入れていないというだけなので、政治判断で長生炭鉱のための予算を確保することも不可能ではないように思われます。
「刻む会」の井上共同代表は、「安全性確保は、本来は国がすべきことだが、それでも私たちは素人ながら一生懸命やっている。埼玉で陥没事故が起きれば、行政は知恵を絞って中に落ちた運転手を探そうとするのに、何故長生炭鉱の183人の遺骨は救おうとしないのか」と問い詰めました。大椿ゆうこは、「国が対応可能な範囲を超えているということを、市民がお金と知恵を出してやっている。その最中に事故が起こったら、政府はきっと責任を問われる。安全性を確保して調査できるよう、政府のお金と知恵を支援して欲しい」と求めました。また、福島みずほ党首は、「硫黄島やパラオの戦没者遺骨は、とても暑い環境で、洞窟の中でも収容作業をしている。何故長生炭鉱の遺骨には、そんなに冷たいのか?」と迫りました。人道調査室長は、従来の答弁を繰り返したうえで、「大臣にこの内容を伝える」と答えました。
日本政府の政治決断が必要
また、井上共同代表は、今年2月1日の追悼集会に韓国政府の行政安全部次官補が政府を代表して参加したことを知っているか尋ねました。人道調査室長・外務省地域調整官は、共に報道等で承知していると答えました。井上共同代表は、韓国政府の代表が来るのは30年間で初めてのことで、その彼がご遺族を含む出席者の前で「政府として最善を尽くす」と約束したとして、長生炭鉱の遺骨収容を日韓基本条約締結60年を記念する共同事業と位置づけるよう、外務省の取り組みを促しました。外務省は、「人道的観点から可能な限り真摯に対応する」との考えを述べました。
1時間半にわたるやり取りで、明るい成果を掴むことは出来ませんでした。長生炭鉱の遺骨収容の実現のためには、政治の決断が必要です。市民の皆さんと超党派の議員とが一緒に、引き続き国の取り組みを求めていく必要がありそうです。