③国民健康保険料の減収(2)
国民健康保険はあくまで保険ですから、「負担に応じて給付を受ける」というのが原則です。しかし、保険料を払えないような低所得者層にも厳格に保険原理を適用すると、保険料支払いのせいで生活が立ち行かなくなってしまいます。そこで、低所得者層には保険料の応益分を減免する制度が設けられています(以下の図の出典はこちら)。
問題は、減額対象者の要件の定めです。それぞれ世帯の所得に応じて減額割合が決められていますが、それも住民税の基礎控除と関連があるのです。例えば夫の給与収入のみで生計を維持している世帯の場合、夫の給与収入が98万円以下であれば、給与所得(=給与収入-給与所得控除(現在は55万円))は43万円以下になりますから、7割の減額を受けられます。この「43万円」という基準が、住民税の基礎控除額と同じになっています。
減額の基準が直接「住民税の基礎控除」と言及しているわけではないので、控除が引き上げられたからと言って、必然的に減額基準も変えなければならないとは限りません。しかし、住民税の基礎控除額が「生計費非課税」(=健康で文化的な最低限度の生活を維持するのに必要な費用には課税しない)の原則に基づいて定められているとすれば、給与所得が住民税の基礎控除額を下回る世帯について満額の保険料を適用するべきでなく、減額の対象とすべきという考え方を採ることはあり得ます。
住民税の基礎控除の引き上げと連動する形で、国保料応益分の減額の基準となる所得要件も引き上げれば、減額を受ける世帯が増え、国民健康保険料収入が減ると考えられます。
なお、給与所得控除が引き上げられた場合は、給与収入が同じでも給与所得は低く算出されることになりますから、今の減額要件を使い続ければ、当然減額対象となる世帯数は増えます。その結果、国民健康保険料収入も減ります。
OR
所得税の給与所得控除を引き上げる → 給与所得が今より低く算出される → 減額対象の世帯が増える → 国保料収入が減る
④高額療養費の給付増
ここまでは保険料収入の減少について見てきましたが、ここからは保険給付の増加に目を向けていきます。
健康保険には高額療養費制度があり、一月あたりの医療費が一定の額を上回った場合、それを超えた分は全額保険給付されます(その分の医療費は患者ではなく、保険者が払うということです)。例えば大きな手術が必要な時、3割負担が払えないからといって手術を諦めなくて済むように準備された制度です。この「一定の額」(「自己負担限度額」と言う)は、被保険者の年齢や収入によって細かく区分されています。とても複雑なので、ざっくりご紹介すると、以下の通りです(出典はこちら)。
計算式は複雑ですが、重要なのは住民税非課税世帯については、自己負担限度額がかなり低めに抑えられているということです。住民税の基礎控除が引き上げられれば、新たに非課税世帯となる世帯が増え、そうした世帯の高額療養費負担は保険者による給付に転嫁されます(これまでなら自己負担としていた部分も、保険者が給付するようになる)から、保険者の給付額は増えます。
医療を受ける立場から見れば給付が手厚くなるということなのですが、保険者の立場から見れば、出費が増え、財政が苦しくなるということを意味します。高額療養費は、国民健康保険だけではなく、組合健保・協会けんぽにもある制度ですから、被用者保険(会社員が加入する保険)の財政も圧迫することになります。