12月3日(火) 「103万円の壁」引き上げが社会保険財政に与える影響について厚労省から聞き取り

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12月3日は所謂「103万円の壁」の引き上げが、社会保険財政に与える影響について、厚労省保健局(医療保険関係)・老健局(介護保険関係)から聞き取りを行いました。

国民民主党が「1995年からの最低賃金の上昇率1.73倍に基づき、基礎控除等の合計を103万円から178万円に引き上げ」ることを公約に掲げ、与党も引き上げに向けた議論を進めています。同時に住民税の基礎控除も連動させて引き上げることが検討されており、地方自治体からは大幅な税収減になると懸念の声が上がっています。

税収減の問題に焦点が当たっていますが、社会保険料の徴収や健康保険の給付が住民税の徴収と連動している都合、保険料の減収に繋がり、保険財政を圧迫させるのではないかと懸念されます。手取りを上げるために保険財政を悪化させ、セーフティーネットを弱めてしまえば元も子もありません

今回の聞き取りで、具体的に取り上げたのは以下の4点です。

  1. 住民税の基礎控除や所得税の給与所得控除が引き上げられた場合、介護保険第1号被保険者(65歳以上)の多くについて、介護保険料の保険料段階が下がると考えられる。その場合、介護保険料減収になるのではないか?
  2. 住民税の基礎控除や所得税の給与所得控除が引き上げられた場合、国民健康保険料の賦課ベースが縮減され、国民健康保険料減収になるのではないか?
  3. 国民健康保険料応益分(均等割・平等割)が減額される世帯の所得設定も、住民税の基礎控除と連動していると考えられる。減額対象を拡大すれば、国民健康保険料減収になるのではないか?
  4. 高額療養費についても、住民税非課税世帯の自己負担限度額が著しく低く抑えられている。住民税の基礎控除が引き上げられた場合、各保険者の給付額が増えるのではないか?

厚労省側からの回答は、所得税における基礎控除・給与所得控除が実際どれだけ引き上げられ、それと住民税の基礎控除引き上げを連動させるかどうか、住民税の基礎控除引き上げと社会保険給付とを連動させるかどうか、連動させる場合はどの程度連動させるのか等の詳細が全く決まっていないため、保険料収入がどれほど減るか等の資産を出すことは困難だということです。ただ、住民税の基礎控除の引き上げを、保険料徴収・保険給付にそのまま連動させた場合は、こちらが懸念したような影響が出ると考えられるとのことです。

所得税法上の「103万円の壁」を引き上げると言っても、基礎控除・給与所得控除をそれぞれどれだけ引き上げるのかすら確定していません(報道では基礎控除を48万円から123万円まで引き上げると言っていますが、「賃金労働者の手取りを増やす」ことが目的なのであれば、自営業者・年金生活者等も含め全員が対象となる基礎控除ではなく、給与所得控除の引き上げで対応すべきではないか、と考えることも出来ます)。不確定要素が多い現状ですが、大まかにどのような影響が出るか、以下詳しくご説明します。

①介護保険料の減収?

介護保険の財源は、半分が保険料、残り半分が公費(国25%国、都道府県12.5%、市町村12.5%)で賄われています。保険料は、第1号被保険者(65歳以上)が市町村に納めるものと、第2号被保険者(40歳~64歳)が健康保険の保険者(組合、協会等。国民健康保険に加入している場合は、国保料に介護分が含まれている)を経由して全国プールしたものを各市町村に配分するものとで構成されています。

そのうち、第1号被保険者の保険料については、社会保障審議会介護保険部会の議論に基づいて厚生労働省が示す標準段階を参考にしながら、各市町村が決定します。被保険者本人、及びその世帯の所得に応じて保険料が決められ、高所得者ほど保険料が高くなるよう設定されています。第9期計画期間(2024年度~2026年度)の標準段階は次の通りです(出典はこちら)。

(※累進性を強め、高所得者が応分の負担をするよう、14以上の段階を設定している自治体もあります。例えば東京都千代田区は、本人の合計所得が720万円以上になる人について、6段階の区分けを行い、合計18段階を設定しています。)

上記の標準段階では、住民税非課税の被保険者は、第1~第5段階のいずれかに該当することになります。もし住民税の基礎控除が引き上げられれば、その分住民税が課税されない人が増えるので、保険料負担が少ない第1~第5段階の人数も増え、保険料減収に繋がる可能性があります。

住民税の基礎控除を引き上げる → 第1~第5段階の人数が増える → 介護保険料収入が減る?
ただ、現行の制度上、実は全体として保険料収入が減ることはありません(「保険料収入が減る?」と「?」を付けたのはそのためです)。介護保険の財源は保険料・公費で半分ずつ賄い、保険料部分について第1号・第2号被保険者が拠出する分については被保険者の人口比で按分する(現在は第1号:第2号=23:27)と定められているからです。つまり、介護保険の給付のために必要な財源の23%は第1号被保険者から徴収しなければならないと定められているのです。
第1~第5段階に該当する人が増えれば、今のままの保険料額だと、定められた額の保険料を徴収できません。従って、公費負担の割合を上げる等の対応がされない限り、保険料の改定で対応することになると思われます。

②国民健康保険料の減収(1)

国民健康保険料は、応益分と応能分で構成されています。

応益分は、国民健康保険の被保険者は全員保険給付と言う利益を受けるのだから、加入者全員が一定額の負担をすべきと言う考え方に基づき徴収される部分です。被保険者一人一人に課される均等割や、世帯ごとに課される平等割がありますが、どちらも定額負担なので、「103万円の壁」の引き上げによって直接の影響は受けません。

一方、応能分は、所得や資産がある人には応分の負担をして頂くべき、という考え方に基づいて徴収する部分です(資産は把握するのが大変なので、所得割のみを用いている自治体が多いです)。「103万円の壁」の引き上げで影響を受けるのは、所得割の部分です。

所得割は、「旧ただし書き方式」で算出する「算定基礎所得金額」に一定の保険料率をかけて計算します。「旧ただし書き方式」は複雑ですが、ここでは給与所得のみがある人の場合に絞って話を進めます。この場合、「算定基礎所得金額」は、「前年の給与所得(=給与収入-給与所得控除)-住民税の基礎控除(=現在は43万円)」で求められます。

「103万円の壁」の引き上げで、住民税の基礎控除や所得税の給与所得控除(上で赤くした部分)が引き上げられれば、その分算定基礎所得金額は下がります。従って、保険料率が一定であれば国保料の所得割が減りますから、国民健康保険料収入も減ってしまいます。

住民税の基礎控除や所得税の給与所得控除を引き上げる → 旧ただし書き方式による算定基礎所得金額が下がる → 国保料の所得割が減る → 国保料収入が減る
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