12月2日は、厚労省・社会援護局の担当者から、生活保護の加算支給漏れ問題について聞き取りを行いました。
堺市が生活保護費の家族介護料加算の運用に問題があり、計65世帯に対して支給漏れがあったと発表しました。市は地方自治法の定めに基づき、過去5年に遡及して家族介護料加算を支払う対応を決めました(NHKの記事はこちら、堺市の発表はこちら)。
生活保護は、憲法第25条が定める生存権の保障のために行う制度であり、国が責任をもって行うべき法定受託事務とされています(だからこそ、支給費の3/4は国庫負担とされています)。自治体によって運用が変わってはなりません。堺市においては、区ごとに加算の有無の判定が違っていたことから、問題が発覚しました。
「生活保護法による保護の基準」は、家族介護料加算について、「(前略)障害により日常生活のすべてについて介護を必要とするものを、その者と同一世帯に属する者が介護する場合においては、別に12,060円を算定する」と定めています(障害者加算の(4))。この「日常生活のすべてについて介護を必要とする」に関する解釈にブレがあり、堺市の場合は一部の区において、ヘルパーを利用している世帯には加算を適用しないという運用がされていたようです。
この支給漏れ問題について、厚労省は「加算をするかどうかは個別の案件ごとの判断」としつつ、「ヘルパーを利用しているからと言って加算を付けないということではない」(ただし、家族が一切介護を行っていない場合は加算を付けられるとは限らない)との認識を示しました。自治体から照会があった場合も、その旨を答えるということです。
支給漏れの原因の一つは、加算の適用可否を判断する基準が曖昧だということです。生活保護が法定受託事務であることを鑑みると、自治体ごとに判断基準が異なることは望ましくありません。大椿ゆうこは、厚労省として自治体に助言を行い、自治体ごとの運用の格差を解消すべきではないかと問いましたが、厚労省側は現時点で生活保護手帳の表現を改める等の対応は考えていないとのことでした(ただし、別冊問答集を現場に落とす等の対応はあり得るとのこと)。
その理由は、支給基準の解釈を具体的に規定すると、基準が曖昧だったために従来加算を付けてきた事例について、今後加算を行えなくなるという負の影響が考えられるとのことです。しかし、堺市のケースを見ても、自治体はどちらかと言うと給付抑制を試みるはずで、基準の解釈の明確化による負の影響がそれほど大きなものとは考えづらいです。
せめて各自治体がこれまで加算の適用をどのように判断してきたのか、実態を調査すべきではないかとも問いましたが、調査すること自体が、これまで加算を適用してきたケースについて今後適用できなくさせるリスクがある他、家族介護料加算の存在自体に疑問を投げかけることになり得るため、調査は難しいとの見解でした。家族以外のヘルパーを利用する家族が増えているため、家族介護料加算を行うこと自体に否定的な意見が出かねないと厚労省は心配しているようです。ただ、24時間ヘルパーに頼れる家族など殆どなく、大半の場合は家族が何らかの介護を担うと思われるので、家族介護料加算は不要と言う論は成り立たないと思われます。
堺市だけで、過去5年の支給漏れは65件に上りました。そうであれば、全国で数百件・数千件の支給漏れがあるのではないかと疑われます。全国どこでも同じ基準で支給が行われるよう、厚労省は実態調査をすべきではないかと強く求め、聞き取りを終えました。