今こそ政府が動く時
井上さんは厚労省・外務省の職員に対し、「政府も長生炭鉱のご遺骨を放ったらかしにしておいて良いと思ってはいないと思う。ご遺族に対して政府としての誠意を見せて欲しい」と、日本政府がご遺骨を放置せず、責任をもって対応するよう訴えられました。大椿ゆうこは、「これだけ市民の方がクラウドファンディングに応じたのは、人々の良心の現れだと思う。それに政府がどう向き合うかが問われている。市民に任せているのではなく、日本政府・韓国政府が過去の協定にとらわれず、市民と一緒に動く方向に進んでいけば、この問題はとても良い解決の仕方をすると思う」と伝えました。
宇部市も「刻む会」に市長名で発した文書の中で、「遺骨の収集、返還につきましては、国の責任において対応されるべきものであることから、本市としましては、引き続き、貴会のご要望を国に伝え、国による遺骨収集等が進むよう努めていきます。また、国によって遺骨収集等の事業が進められる際には、本市もこの事業に協力していきたいと考えています」との見解を示しています。
「どういう条件がそろえば厚労省は動けるのか、省内で議論しているか?」と大椿ゆうこが質問すると、人道調査室長は「坑口がどこか判らない状況から、坑口が開き中に入れるようになったことで、今回状況が変わったということは理解している」とした上で、「厚労省の立場は2005年に日韓首脳間で話し合ったことを踏まえ、何が出来るか外交的な視点で考えるということだ。一般論として炭鉱で亡くなった方のご遺骨を発掘することは国の受け持つ範囲ではない」と答えました。政府は長生炭鉱の犠牲者を戦没者とはみなしていないため、戦没者遺骨収集推進法が適用されず、犠牲者の遺骨収容を国の責務と規定する根拠法がない状態になっています(沖縄の場合は、平和祈念公園にある「戦没者遺骨収集情報センター」が、戦没者遺骨の収骨と情報収集等を行っています)。
しかし、長生炭鉱は戦時中のエネルギー確保のために営業されていた炭鉱であり、水没事故は生産量の拡大を求められる中で無理な採掘をする中で発生しました。長生炭鉱で働いていたのは戦争のために動員された労働者であり、単なる産業災害の被害者とは異なります。「刻む会」の井上代表は、戦没者の概念を拡大すべきだと主張されました。現状のままでは長生炭鉱からご遺骨が見つかっても、「無縁仏」のような扱いをされかねず、DNA鑑定・返還に向けた対応がきちんと取られるとの確証はありません。
11月5日の定例会見で、福岡資麿・厚生労働大臣は、長生炭鉱のご遺骨は「海底の坑道内に水没しており、遺骨の具体的な所在が特定できていない」「日本人の遺骨と混在しており返還が難しい」「坑道の入口である坑口及び海底の坑道の安全性が確認できていないこと」等を理由に、人道調査室による実地調査を行わないという従来通りの見解を繰り返しました。潜水調査が始まった現段階でも見解を変えない厚労省に対し、井上さんも大変失望されたとのことです。
井上さんは、日本人と朝鮮半島出身者のご遺骨の混在については放射性同位体分析の活用により両社の判別は可能になるのではないか、坑口・坑道の安全性については、伊左治さんが潜水したところ坑口内は崩落するような状況ではなく、入口はボックスカルバートによる補強工事で安全性向上が可能だと主張されました。人道調査室長は、「状況が変わったと認識している」と明言されていたので、大臣が井上さん・伊左治さんらから実情を聞き、見解を変えて下さることを願っています。
来年2025年は、日韓基本条約締結から60年です。井上さんは、「遺骨問題に日韓両政府が取り組むことが、次の未来に繋がっていく。60周年に合わせて遺骨問題の解決を取り組みの軸に入れれば、新しい日韓友好の未来が切り開かれると思う」と強調されています。とりわけ長生炭鉱は、そこで亡くなったのが誰か判る、極めて稀な事例です。ご遺族がご存命の内に、遺骨返還までの道筋がつけられるよう、韓日両政府が協力し、前向きな策を打ち出せれば、と思います。
厚労省・外務省との面会の最後に、大椿ゆうこは、①今日の面会の内容を厚労大臣に伝えること、②大臣が潜水調査を行っている伊左治さんと面会し話を聞くこと、③厚労大臣が社民党・大椿ゆうこと会って(可能なら井上さんも同席)話を聞くこと、の3点を要求しました。本件の進展については、引き続きこのブログでもお知らせいたしますので、是非ご注目頂きますよう、宜しくお願い致します。
※会見の様子はこちらからご覧いただけます